聖書探求


「お前が痛いんは、目やのうて心と違うん?」

真っ直ぐに俺を見つめるその瞳の強さに、その言葉の鋭さに俺はたじろぐ。

「こ、ころ…?」
「せや、心や。お前は目が痛いんやなくて、心が痛いんや。はよ認め、な?」

そう言った白石は立ちつくす俺の頭をを背伸びをして、抱きしめる。身体ではなく、頭を抱きしめてくる白石のリアリストさを、その優しさを感じた。
ああそうか、俺は、心が痛かったのか。
抱きしめられたその温もりと共に白石の言葉は俺の中に染み込んでゆき、今まで目を逸らしてきたもの全てが涙共に溢れ出た。

今日の俺が14年の短い人生の中できっと、一番泣いた日だろう。

ひりついた目元と赤くなっているだろう目を感じた俺は惰性のように白石に縋りながらそんなことを考える。
白石は白く美しい指は俺の髪を梳くように撫でる。それは俺がもっともっと子供だった頃に母にされた行為を思い出させた。気恥ずかしさで体に力が入ってしまう。白石のシャツを握っていた手にも勿論力が入り、白石はクスリ、と笑った。
それは俺にさらなる羞恥を与え、優しいくせに酷か男やね、と心の中でごちた。声を出せばもっと甘えてしまいそうな気がしたのだ。
優しい男だとは思っていた。だがここまで沼のように、泉のように優しい男だとは思わなかった。

聖母のごたる、男ったい。
優しさにふやかされた俺の頭はそんな沸いたことを考えたが、あながち間違えてはいないのではないだろうか。
金ちゃんを見るこの男の顔は時としてなにか人を超越したような雰囲気を伴う時がある。それも聖書と呼ばれてしまった所以なのだろうか。
俺の悪い癖だ。

気になりだすと、とにかく追い求めたくなる。知り尽くしたくなる。その全てを暴いてしまいたくなる。
マグマのように噴き出したこの興味は俺の痛みを、羞恥を、救いさえも呑み込んだ。

「どないしたん?もう大丈夫なん?」

少し身体を離した俺を貼り付けたような顔で心配そうに見つめる白石に、俺は

その顔、絶対剥がしてやるけんね、待っとれよ、と誓った。