眩しく光る


いつもと同じだと思っていた。
スタジアムの歓声も、僕の愛しいポケモンたちも、その先の勝利も。
だけど……。


挑戦者のあの子にバッチを渡して、騒ぐレポーターの人たちを無視して、控え室に入った。
鍵をかけた途端に、足から力が抜けて、ずるずると扉にもたれかかる。

(知らない子に負けたのは……いつぶりだろ……)

負けないわけじゃない。
ただ、負ける人が決まっていて、それも必ず負けるわけじゃない。勝つか負けるかわからない勝負のなかで負けることがあるわけで。

だからつまり、名前も知らない、ただの挑戦者に負けるなんてことは、久しぶりなのだ。

だからこそ悔しく思う。自分に油断や、負けないという驕りがあったことがよくわかるから。
トレーニングに手を抜いたことはないし、さっきの試合だって最善の指示をしたと思える。
でも心の中に負けるはずがない、という思いがあった。

必死さが、きっと、足りなかった。
僕のポケモンたちとあの子のポケモンたちに差はきっとなかった。
あの子はただ勝ちたいと願い、必死だった。
ポケモンたちはその願いを叶えるために必死に戦った。
僕はきっと、その思いに負けた。

「本当に、情けない……、こんな負け方は、久しぶりだな……」

もたれかかった扉越しにレポーターの人たちの声が聞こえる。
「マクワさん!出てきてください!お気持ちを教えてください!」
「チャレンジャーとの試合について一言だけでもお願いします!」
「マクワさん!」
「マクワさん!」


「情けなくて、悔しくて、いやな気持ちですよ……」

扉越しに、小さな声で応える。わかっている。彼らが聞きたいことはこんな言葉じゃなくて、新進気鋭の強いチャレンジャーに対するジムリーダーとしての言葉だろう。だが今はとても、そんな言葉を出せない。
自分の弱さに、ひたすらに心がぐちゃぐちゃになってそんな自分すらいやになる。
サングラス越しの視界が歪む、膝を抱えて、鼻がツンとしてくる。
扉越しのレポーターの声がまるで自分責めているようにすら思えてくる。
そんなわけないのに。

「っひ、く……っふ、…ぅ、うぅ゛」

昔から、負けると泣いてばかりいた。泣かずにはいられなかった。こうしないと情けなさが、悔しさが、自分の中からなくならなかった。



しばらく泣いて、泣き止んだ頃には扉の向こうにはレポーターの人たちはいなくなっていた。
ジムトレーナーの誰かがレポーターの人たちを外に連れて行ってくれたのかもしれない。

扉に頭を預けて、泣きすぎて痛い目を瞑る。
今日の試合を思い出す。情けなさと、悔しさがまた襲ってきたけど、ぐっと堪えて、気持ち以外の敗因を探す。ちゃんとした反省をして、立ち上がる。

「次は、負けない。次は僕が勝ちます、必ず」

情けなさも、悔しさも、自分のものだから。
昇華した気持ちを糧に、また僕は、強くなれるはずだから。