その時は


一人、酒を飲む。
机の上に置いてある写真立てを見て、ほくそ笑む。

「馬鹿な奴だ、お前は全く。」

『大総統になる。』

「あれは、私の罪だ。私が、殺したものたちにできることをなにかしたかっただけなんだ、したかっただけなんだ……。」

写真を見つめて、項垂れる。

違う、そうじゃない。

「なあ、ヒューズ、お前が死んで、私は、わたしはどう償えばいい?グレイシアに、エリシアに合わせる顔がないじゃないか……」

涙が溢れて息が苦しくなる。

違う、そうでもない。

「なあ、ヒューズ、私は、私は、お前の仇を討ちたいよ、お前を殺した奴らを全員見つけ出して苦しませたいよ、殺してやりたいよ。殺して……やりたいよ……。」

そう、そうだ、でも、それよりも、

涙に濡れたまま、写真を見つめる。
にこやかに笑うヒューズと不機嫌な私。
写真は士官学校を卒業したての頃に撮ったもので、二人とも若い。
わたしと、ヒューズの写真。
涙がまた溢れて、写真がぼやける。

ああ、ヒューズ、わたしは

「きっと、ずっと、お前のことが」





一人酒をした机は窓際に置いてあるため、朝日で目が覚めた。
いつのまにか泣き疲れて、眠っていたらしい。

「ふ、泣き疲れて眠るなんて、まるで子供だな…」

昨日泣きすぎたせいか目元がピリピリして痛い。
私は写真立てを持ち、写真の中のヒューズにキスをする。そして写真立てを抱きしめる。

「お前は私を大総統にするために尽力してくれた。お前と私の望みは私が大総統になりこの国を変えることだ。…そうだよな、ヒューズ。お前の仇を討ちたいと思う、殺してやりたいと思う私は、お前がその命をかけて尽力してくれた男ではないな。そんなことを、お前は望みはしないよな。」

涙は出ない。
かわりにまた一人ほくそ笑む。

「私はお前が支えてくれた男でありたいと思うよ、ヒューズ。私は、上に行くよ。ちゃんと上に行くから、その時は。」

腕の中にあるマース・ヒューズの笑顔にもう一度キスを送った。

「お前を殺したやつを殺してもいいかな」

暗い瞳で私は写真の中のヒューズに3度目のキスを送った。